2012/11/29

一介の産業医が臨床医の先生方にお願いしたい事・第一回

私は普段は会社内で産業医なんぞをしております。専属産業医というやつですね。普段はライブやガンプラやガジェットの話しか書いていないユル〜いブログですが、たまには真面目な事を書こうと思います。テーマは「一介の産業医が臨床医の先生方にお願いしたい事」。会社の中で社員さんと話していると、病院の中では見えない事が色々見えてくるんですよねぇ。

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さて、第一回のお願い(第二回があるか、保証は致しかねますけどね)ですが、今回は精神科・心療内科の先生方にお願いです。「社員(患者)に気軽に“あなたの上司は病気に理解がないから異動した方がいい”なんて言わないで下さい」。


まず第一に「本人が不利益と感じる対応を上司が取った時、その理由は本当に上司の病気への不理解のためなのか」を考える必要があると私は思います。よくよく話を聞けば、社員(患者)の側にも問題な行動や発言がある場合もあるのです。ならば社員(患者)だけでなく上司の話を聞かずに一方的に上司を批判してはいけないと思うのです。


第二に「職場の中に戻っていく最中に、主治医のそうした不用意な発言が上司−社員の関係の悪化を生じさせる危険がある」事を認識して下さい。メンタルヘルス不調の社員(患者)は色々な不安を抱えて職場で過ごしているという事は、精神科・心療内科の先生方なら承知の事と思います。その最中で主治医から上司への不信感を煽る様な事を言われた社員(患者)は、必然的に上司だけでなく職場全体への不信感を高めていき体調悪化を自ら生み出す状態となってしまいます。


第三、「会社では“職場の異動”というのはそう簡単にできるものではない」のです。本人の適性を考えながら受け入れ先を探すのは大変骨が折れます(骨を折るのは人事だったりもっと上の上司だったりしますが)。体調不良の方であれば尚更です。だから会社にとって「異動」という対応は基本的に「それ以外に選択肢がない」という場合の超必殺技なのです。

異動に関してついでにもう少し言うと、医局にいた先生方なら、医局人事でコロコロと病院から病院へ異動させられた経験がおありと思います。その時に新しい職場=新しい場所・新しい同僚・新しい患者に適応するのは大変だったと思います。それでも仕事の中身は自分の専門分野(診療科)のままである事が大抵です。(異動と同時に診療科を変更する事はそうそうないでしょ?)

会社内の異動も同じ、メンタルヘルス不調の状態の方が新しい職場に適応する事はとてもエネルギーを使います。そしてオマケに経験のない新しい仕事を覚える事になるわけですが、通常はそれだけでもとんでもないエネルギーを使うのです。新しい仕事を覚えつつ新しい職場にも適応するというのはとてもとてもエネルギーのいる事なので、「異動」はたいていの場合はリスキーな賭けになるんです。

だから「職場復帰の時には原則的には元の職場で」と主治医(臨床医)の皆さんも仰っているではないですか。そうした意味でも「異動」は切り札なのです。


第四は「社員(患者)は上司にも主治医にも話していない事が結構多い」という事。体調が心配な方には産業医として定期的に面談を実施し、面談結果に応じて上司や(必要があれば)主治医にフィードバックを行っていますが、話を聞いていて「それ、上司に話した?」「主治医の先生にきちんと報告した?」と確認すると「言っていません」という事が結構あるんですよねぇ。

まぁ逆に言えば、産業医に対しても話していない事が色々あるんでしょうけどねぇ〜。

それはともかくとして、極論を言ってしまうと、社員(患者)が自発的に言ってきた事だけを聞いて極端な発言をするのは避けて欲しいのです。その発言に至るまでに何があったのかをちゃんと聞いて欲しいのです。そして第一の「片方だけの意見を聞いて批判しないで欲しい」にも繋がるわけです。


「上司に話を聞く機会なんてない」という先生がおられるかもしれませんが、ちゃんとした上司なら社員(患者)を通じて連絡を取れば病院へお伺いします。人事担当者と話がしたければ人事担当者もお伺いしますよ。応じない上司や人事がいるならトンデモ会社かもしれませんが、私が担当している会社の皆さんはちゃんと応じますよ。

「通常の外来の中でそこまで時間が割けないよ」と仰る先生方、そのために産業医がいるのです。主治医(臨床医)の先生が会社の事が分からないのは当然といえば当然なのです。そのために産業医がいるのですから、産業医に対して問合せをしてみて下さい。


残念ながらナンチャッテ産業医やトンデモ産業医もかなりいるのが非常に難しい問題なのですが、ちゃんとした対応をしてくる産業医ならばひとまず信用をして頂きたいのです。復職時やら体調不良時やらにきちんと問合せを行う産業医は、主治医(臨床医)の先生と連携を取ろうとしている真面目な産業医だと思いますので、ひとまず信用して下さい。


産業医とは社員(患者)・会社・主治医(臨床医)の間をつなぐコーディネーターだと私は考えています。そのために「会社の事を知る事のできる医師」である産業医が会社の中にいるのです。


ここであえて暴言を吐かせて頂きますと、「上司は病気の事を知らないかもしれないけど、主治医(臨床医)は会社の事を知らないでしょ?なら会社の事に対して不用意で勝手な発言は避けて下さいよ」という事なんですよ。


ここで勘違いして頂きたくないのですが、私は別に臨床医の先生方にケンカを売っているわけではありません。むしろ仲良くきちんと連携を取っていきたいのです。そのためには臨床医の先生方にも産業保健について知って頂きたい事が色々あるのです。


ちなみにこうした事例、ボチボチあったりします。そんな時に私が産業医としてどういう風に対応するかというと、社員(患者)の訴えを聞いて、上司の話を聞いて、状況と問題点を整理し、双方に対して解決案を提示し、社員と上司で話をさせる…という感じです。


「そんなの病院じゃ時間もないしできないよ」と仰る先生方、だからそのために私の様に産業医がいるんですって。産業医と主治医(臨床医)は敵対する間柄ではないのです。むしろ協力し合う間柄なんです。だから産業医にドンドン聞いてきて下さい。

いやもうホント、お願いしますよ…。

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むぅ…何かあったその日に書くと色々まずいので、日が経ってから書かざるを得ないのですが、精神的な新鮮さがなくなってしまうのが難しいところです。

正直に言うと、あんまりこのブログで真面目な事は書きたくないし、批判を受けそうな事も書きたくないんですよね…。私は基本的にクラゲの様にユラユラ生きているので。

だけど、自分の立場だからこそ書ける事、伝えたい事があると思うので、このブログでは今回が初めての事になりますが、仕事の事について真面目に書いてみました。

御意見等はコメントにお願いします。批判は凹んじゃうけどオッケーです。返事は気が向いたら書きます。

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あそうそう、「おめぇ偉そうに講釈垂れやがってどこの若造だ!」という御意見が来るかもしれませんね。

当方、産業保健に関するそれなりの教育を受けて修練を積んできたつもりですし、今の会社に入ってまだ数年ですが一人産業医の専属産業医として活動する事でボチボチの経験もある方だと思います。そのおかげか日本産業衛生学会の産業衛生専門医ですし労働衛生コンサルタント資格も持っています(名ばかり事務所の所長ですよ)ので、初心者産業医は脱して入門産業医くらいにはなっていると思いますよ、一応。

まぁザナドゥのWizard Levelで言えば「Novice-Wizard」から「Initiate」にはレベルアップしてるんじゃないですか?^^;)

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